「棗にまつわるエトセトラ」へ


先日、東京国立近代美術館工芸館で「棗にまつわるエトセトラ」を見てきました。棗(なつめ)とは、抹茶を入れる茶道具のことで、漆の茶器全般も指すそうです。

どの作品も小さな棗に丁寧で繊細な仕事が施されていて、すごく素敵でした。

特におもしろかったのが、漆芸家の増村益城氏が乾漆朱輪花盤をつくる工程を最初から最後まで撮影した映像でした。

アクリルなどで平面の型をつくったあとに、粘土で立体の原型をつくり、そこに石膏をかけて雌型をつくります。そしてカリ石けんを十分にふくませたら、今度は石膏で雄型をつくり、作品をはがれやすくするためなのか、そこに塗ったりやすったりとさまざまな処理を行い、やっと型が完成。麻布を貼り付けて、何度も何度も何度も漆を重ねては乾燥してを繰り返していきます。

雄型は繰り返し使うのかと思ったら、作品が完成したらどんどん石膏を壊して外していきます。あれだけ手間をかけてつくった石膏型が一回しか使えないなんて(陶芸の場合では通常何度も使えるのに)……もう完成までの手間が果てしない!

型作りは最後の仕上げ以外は陶芸の場合とほとんど同じなので、強度をあげるため雌型に針金を入れたり、バケツなどに原型の粘土をいれなくても上から手でシャバシャバ石膏をかけていく方法もありなのだなといろいろ参考になりました。

また、最近は金継ぎを習っているので、漆の塗りを見ているのも楽しかったです。

鳥をモチーフにした素敵な作品もたくさんありました。工芸館は、写真撮影NGの表示のある一部作品以外は基本的に撮影Okなので、その中でも印象的なものをいくつか撮影しました。

鴛鴦蒔絵棗/松田権六 作

夕映蒔絵茶箱/寺井直次 作

蒔絵螺鈿有職文飾箱/松田権六 作

鳥モチーフではないですが、練り込みの総柄イメージの強い松井康成作品でこういうのはちょっと珍しい感じがしました。

工芸館は昔働いていた職場の近くにあり、ランチに行く代わりにご飯も食べずによく通いました。

素敵な工芸作品が凛と飾られている空間が大好きというのはもちろんですが、当時は仕事が忙しすぎて心身ともに辛くなったり、そのため何ヶ月も陶芸の月謝が無駄になるような生活にもフラストレーションを感じていて、この空間の静かな空気の中で作品に触れることで、そうした負の気持ちを少し解消することができました。

個人的に憩いの場としての思い入れもあるのですが、2020年には石川県に移転してしまうそうです。時間の流れとともに好きな場所がなくなっていく経験は何度も誰もがすることですが、ここに関しては特に寂しい気持ちが大きいです。

昔の職場を辞めた後に、ここで働いてみたいなと思いタッチ&トークのボランティアスタッフに応募したこともあったのですが、論文審査は通ったものの、面接で「仕事を持っている人は結局シフトを休む」というような懸念を強く持たれ(きっと過去にそうした経験があったのでしょう)、フリーランスはいかに自分で仕事をコントロールできるかを説明したのですが、そのときはあまりボランティア経験がないということも、本当に仕事で休まないのかを判断する材料として弱いという印象を持たれたようでダメでした。

その後、陶芸活動をはじめてより忙しくなってしまいましたが、イベントや展示でのボランティア経験がけっこう増えたので、そろそろ何かの時間を減らして再チャレンジしようかなと思っていた矢先でした。もうここで働くことは叶わないのですね……。

建物はどうなるのか工芸館の方にうかがったところ、「重要文化財なのでこのまま残るのは確かだけれど、どうなるかはまだ発表されていないのでわからない」とのことでした。

できれば、一般開放される形で新たな活用がされると嬉しいなと思います。